名前と戸籍の性別を変えた日のこと
── 顔と名前が違うストレスと、両親に分かってもらうまで

公開日:2026年10月18日 / 書いた人:FUN TO MOVE オーナー(FTM当事者)

名前を変えようと思ったきっかけ

見た目が男性らしく変わっていくにつれて、顔と名前が一致しないことが、大きなストレスになっていきました。

クレジットカードを出せば「ご本人のものですか?」と聞かれ、携帯電話の契約やレンタルショップの会員証でも、本人確認のたびに名前と顔を見比べられる。 「そうです」と答えるたびに、少しずつ削られていく感じがありました。

学生時代はスポーツをしていたこともあって、ボーイッシュでも「何かやってる人だね」で済んでいました。 でも社会人になると「女性なのに化粧をしないなんてありえない」という空気があり、そのあたりから社会との摩擦がはっきり増えていきました。

両親に分かってもらうまで

ホルモン治療や手術は先に始めていましたが、戸籍の名前と性別を変えることだけは、両親に黙って進めることはできないと決めていました。 公的な書類を変えるのは、自分の中で特別なことだったのだと思います。

「そのままでいいじゃない」「なんでそこまでするの」と言われ、話すことさえはばかられる時期が長く続きました。 それでも、名前と見た目が違うことで生活の中でどれだけ困っているかを伝え続けて、やっと許してもらえました。 手続きそのものより、ここがいちばん大変だったかもしれません。

家族への伝え方に悩んでいる人は、困りごとQ&A「家族・まわりの人」や、家族の人に読んでもらえる「家族・友人・パートナーの人へ」も参考にしてください。

わたしの場合:時期・費用・準備したもの

申し立てた時期40代のとき(数年前)
手続き名前の変更と戸籍の性別の変更を、家庭裁判所で一緒に
許可までの期間思っていたより早かった
かかった費用診断書の作成に1万5千〜2万円ほど。そのほか戸籍謄本などの書類代
添えた資料性同一性障害の診断書 など

手続き自体は、思っていたよりもすんなり進みました。 時間がかかったのは、裁判所よりも、自分の気持ちと家族の気持ちが追いつくまでのほうでした。

家庭裁判所でのこと

裁判所と聞くと、法廷で何かを判定されるようなイメージがありました。 でも実際は、小さな個室にテーブルがあって、1対1でインタビューを受けるくらいの雰囲気。緊張するような場面ではありませんでした。

厳しい質問もなく、わりと事務的です。「いつからこの名前を使っていますか」「何年くらい使っていますか」といったことを聞かれて、すぐに終わりました。

2人の医師の診断書(先に知っておけばよかったこと)

戸籍の性別を変えるには、2人の医師の診断書が必要です。ここが、わたしにとってはいちばん遠回りしたところでした。

まだ情報が少なかったころ、最初に通ったのは遠方の心療内科でした。性同一性障害の「カウンセリング」として、子どものころの話を聞かれたり、うつ状態ではないか、思い違いではないかを確かめるような面談が何回も続きました。 時間もお金もかかって、途中で通うのをやめてしまったんです。 しばらくして、診断書だけがほしくて急に訪ねたら「そんなことはできない」と怒られてしまいました。今思えば、それはそうですよね。

その後、もともと知っていた別の先生のところへ。その先生は自身も当事者で理解が深く、その日のうちに診断書を書いてくれました。 2通目は、インターネットで情報が取れる時代になってから、性同一性障害(GID)の診療で知られる先生のところでもらいました。こちらもすぐに出ました。

誰でもすぐに診断書がもらえるわけではありません わたしの場合は、すでに手術も終えていて、後戻りできない状態で受診したので、診断がすぐに出たのだと思います。 診断までの流れや期間は、その人の状況によって大きく変わります。「すぐもらえるもの」と思わないでくださいね。

いまは情報が増えた一方で、どこを探せばいいのかかえってわかりにくいかもしれません。 GIDにくわしい医療機関の探し方は、困りごとQ&A「どこの病院に行けばいいかわかりません」にまとめています。

新しい名前のこと

名前は、自分で考えたものではありません。同じ仲間だった友だちに「どんな名前がいいかな」と相談したら、半分おもしろがりながら考えてくれて、 「もうこれにしちゃえ」と決まりました。 ずっと使い続ける名前なのに、決まり方は案外あっさり。でも、仲間がつけてくれた名前だということは、ちょっとした支えになっています。

新しい名前で初めて呼ばれた日のことは、もう昔すぎて覚えていません。 それよりも心に残っているのは、両親やきょうだいからは、今でも新しい名前で呼ばれることがない、ということです。 昔の名前で呼ばれることもあるし、「ちょっと」と、名前を呼ばずに話しかけられることのほうが多いかもしれません。

きっと、呼べないんだと思います。長いあいだその名前で思ってきた人にとって、新しい名前にはかなりの違和感があるはずです。 だから、それはしかたのないことだと思っています。名前を受け入れてもらうことと、名前で呼んでもらえることは、少し別のことなのかもしれません。

手続きの流れ(一般的な情報)

戸籍の性別を変えるには「性同一性障害特例法」にもとづく性別の取扱いの変更、下の名前を変えるには戸籍法にもとづく名の変更許可を、それぞれ家庭裁判所に申し立てます。 わたしのように、両方を同じ時期に申し立てる人も多いです。 性別の変更の要件は近年大きく変わっているので、困りごとQ&A「名前・戸籍の手続き」も確認してください。

名前の変更の、おおまかな流れは次のとおりです。

  1. 申立て:住んでいる地域を管轄する家庭裁判所に「名の変更許可」の申立書を出す
  2. 書類の提出:戸籍謄本(全部事項証明書)や、名前を変える必要がある理由を示す資料を添える
  3. 審理:書類の確認や、場合によって裁判官などとの面談(審問)がある
  4. 許可の審判:許可が出たら、審判書の謄本と確定証明書を受け取る
  5. 役所へ届出:市区町村役場に「名の変更届」を出して、戸籍の名前が変わる

名前の変更には「正当な事由」が必要とされています。性別違和がある場合、医師の診断書や、新しい名前(通称)を日常的に使ってきたことがわかる資料 (郵便物、名刺、社員証、SNSや学校での使用記録など)が判断材料になることが多いです。

必ず最新情報を確認してください 必要な書類・費用(収入印紙・郵便切手)・審理の進め方は家庭裁判所や時期によって異なります。申し立ての前に、裁判所のウェブサイトや管轄の家庭裁判所の窓口で確認しましょう。

変わってからの手続き

正直に言うと、名前と性別が変わってからのほうが大変だったかもしれません。手続きが、とにかく多いんです。 わたしが変更したものを思いつくままに挙げると、こんな感じです。

ほかにも、思い出せないくらいたくさんありました。自分の記憶をたどるより、チェックリストを見ながら「これもあった」と確認していくほうが早いです。 一覧は「名前や性別を変えたあと、何を手続きすればいい?」にまとめています。

それでも、本人確認のたびに顔と名前を見比べられることがなくなっていく、その一つひとつが、わたしにとっては小さなお祝いでした。

この記事について 手続きの説明は一般的な情報と筆者個人の経験です。個別の状況については家庭裁判所や弁護士にご相談ください。

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