「知っている人」と「知らない人」のあいだで、 戻らない「見方」のことに続いて、話すこと・隠すことについての3本目です。 今回は、仕事の中で感じていることを書いてみます。
顔を出さずにはできない仕事
50代になって、本業の事業をもう一度しっかり育てていこうと、いろいろもがいています。 そうすると、どうしても自分の性別のことが関わってくるんです。
世の中には、キャラクターを立てて顔を出さずに発信している人もいます。YouTubeでは顔を隠したり、アバターで話したり。 目立ちたくない人には、いい方法だと思います。 でも、わたしの仕事は、実際に人と会って、顔を合わせてするものです。 人前に出ないと、事業を広げるのはなかなか難しい。だから、表に出る以上、過去の話を避けて通ることもできません。
英語にしたら、「グローブ」の一語に迷った
仕事で文章を書くとき、表現をかなり考えます。 自分のことを伝えるには、過去の話が欠かせない場面があるからです。わたしの場合は、長く打ち込んできたスポーツのこと。 その経験は、今の自分の土台になっています。
あるとき、スポーツの道具の「グローブ」をたとえに使った文章を書きました。 日本語なら、これで何の問題もありません。「グローブ」と言えば、野球やソフトボールのグローブのこと。 どちらの競技かなんて、わざわざ書く人はいないし、読む人も「野球をやっていたのかな」と自然に想像してくれます。
ところが、その文章を英語にしようとしたら、そうはいきませんでした。英語で「glove」と書けば、ただの手袋になってしまう。 意味を通すには、「baseball glove」なのか「softball glove」なのか、どちらかを書かなければいけないんです。
ふつうの人なら、こんなことで悩まないと思います。自分のやってきた競技を、そのまま書けばいいだけです。 でも、わたしにとっては、その一語がそのまま「どんなチームで、どんなふうにプレーしていたか」につながってしまう。 何も隠す必要がなければ考えなくていいことを、いちいち考えている。なんで、こんなところで立ち止まらなきゃいけないんだろう、と思いました。
嘘はつけない。だから、言葉を選ぶ
ふつう、自分の過去の話は、聞かれなければしないものです。でも、聞かれたときに答えればいい、というだけではないんですよね。 雑談の端々に、昔の話は自然と出てきます。そのたびに、「ここで嘘は言えないな」「どこまでなら言えるかな」と考えながら話しています。
新しく会う人は、わたしの過去を知りません。仕事の上では経歴を話す必要もある。 そのとき、ごまかしたくはないけれど、全部を話すわけにもいかない。その間で、いつも言葉を探しています。
「この人、何か隠しているな」と思われること
人と打ち解けていくとき、相手が何かを話さずにいると、なんとなく伝わるものです。 「この人、何か隠しているな」「気軽には話さない人なんだな」と思われているかもしれない。 それで距離ができてしまうこともあるのだろうな、と思います。
これは、わたしだけの話ではないはずです。FTMの人も、MTFの人も、それぞれに「ここまでは話す、ここから先は話さない」という線を引きながら、毎日を過ごしているのではないでしょうか。
もし同じように、言葉を選びながら暮らしているなら。それは、あなたが何かをごまかしているからではありません。 ただ、自分の過去と今を、両方大切にしようとしているからなんだと思います。